“## 猫伝染性腹膜炎 (FIP) : 致命的な病気から希望の光が見える病気へ

猫伝染性腹膜炎 (FIP) は、猫にとって致命的となる可能性のある深刻な病気です。しかし、近年では治療法の進歩により、希望の光が見えてきています。ここでは、FIPの症状、原因、治療、予後について詳しく解説し、飼い主が正しい知識を身につけるためのお手伝いをします。

**1. 症状: 見逃さないで! 愛猫を守るための早期発見**

FIPの症状は、病気の進行段階やタイプによって大きく異なります。初期症状は他の一般的な猫の病気と非常に見分けにくいため、注意が必要です。

**1.1. 湿性型FIP:**

* **腹部の膨張:** 腹部に水が溜まり、膨らんだように見える。
* **呼吸困難:** 胸部に水が溜まり、呼吸が速くなる、浅くなる。
* **食欲不振、体重減少:** 元気がなくなり、食欲が落ちる。
* **発熱:** 高熱が続く。
* ** lethargy (無気力):** 動きが鈍くなり、寝てばかりいる。

**1.2. 乾性型FIP:**

* **発熱:** 断続的に高熱が出る。
* **食欲不振、体重減少:** 徐々に元気がなくなり、食欲も減退する。
* **神経症状:** 運動失調、痙攣、視力障害など。
* **ぶどう膜炎:** 眼の炎症により、瞳孔の形が変わったり、眼の色が変化する。
* ** 皮膚病変:** 結節や黄疸など。

**1.3. 共通の症状:**

* **元気消失:** 普段より活動量が減り、静かになる。
* **下痢、嘔吐:** 消化器症状が見られる場合がある。

これらの症状に気づいたら、すぐに獣医師の診察を受けることが重要です。特に、ワクチン未接種、子猫、老猫はFIPのリスクが高いと言われています。

**2. 原因: 猫コロナウイルスとの複雑な関係**

FIPの原因は、猫コロナウイルス (FCoV) の変異です。FCoV自体は非常にありふれたウイルスで、多くの猫が感染していますが、ほとんどの場合、軽度の消化器症状を引き起こす程度で、多くの猫は症状すら示しません。

しかし、ごくまれに、このFCoVが猫の体内で突然変異を起こし、FIPウイルス (FIPV) に変化することがあります。FIPVは、猫の免疫システムを攻撃し、血管に炎症を引き起こします。この炎症が、FIPの様々な症状を引き起こす原因となります。

**FIPの発症リスクを高める要因:**

* ストレス
* 多頭飼育環境
* 免疫力の低下
* 猫白血病ウイルス (FeLV) や猫免疫不全ウイルス (FIV) などの他の感染症

**3. 診断: 確定診断の難しさ、そして希望を繋ぐ検査**

FIPの診断は容易ではありません。なぜなら、特定の検査方法がないからです。獣医師は、猫の症状、病歴、身体検査、血液検査、画像検査 (X線、超音波検査など) を総合的に判断して診断します。

**診断を確定するために用いられる検査:**

* ** Rivalta試験:** 胸水や腹水を用いた簡易検査。陽性反応はFIPを示唆するが、他の病気でも陽性になることがある。
* ** PCR検査:** 血液、糞便、体液中のFCoVを検出する。ただし、FCoV感染とFIPV感染を区別することはできない。
* ** 組織生検:** 影響を受けた臓器の組織を採取し、顕微鏡で観察する。FIPの特徴的な病変が見られる場合がある。
* ** 免疫染色:** 組織生検サンプルを用いて、FIPVに特異的なタンパク質を検出する。

FIPの診断は複雑で、獣医師との綿密な連携が不可欠です。

**4. 治療: 対症療法から抗ウイルス薬へ、 進化するFIP治療**

従来、FIPは有効な治療法がなく、対症療法が中心でした。対症療法は、脱水症状や食欲不振、二次感染などに対する治療を行い、猫のQOL (生活の質) を維持することを目的としています。

しかし、近年、FIPの治療に希望の光が差し込んでいます。抗ウイルス薬「GS-441524」を使った治療法が、高い有効性を示しているという報告が相次いでいます。GS-441524は、FIPVの複製を阻害することで、病気の進行を抑制します。

**GS-441524治療の特徴:**

* 高い有効性: 早期発見、早期治療であれば、70-80%以上の猫で症状の改善が見られる。
* 長期の投与が必要: 通常12週間以上の投与が必要で、治療期間中は定期的な血液検査が必要となる。
* 高額な治療費: 薬剤費に加え、検査費用や通院費用も高額になるため、経済的な負担が大きい。

GS-441524は、FIP治療において画期的な薬剤ですが、現時点では、日本国内では未承認薬であるため、入手が困難な場合や、自由診療となるため、高額な治療費が課題となっています。

**5. 予後: 早期発見・治療が予後を大きく左右する**

FIPの予後は、病気のタイプ、進行段階、猫の年齢や健康状態、そして治療法によって大きく異なります。

従来、FIPは致死率が非常に高い病気とされてきましたが、GS-441524治療の登場により、予後に関する考え方が大きく変わりつつあります。早期発見、早期治療を行えば、多くの猫が回復し、 normal な生活を送れる可能性があります。

FIPと診断された場合でも、決して諦めずに、獣医師とよく相談し、最善の治療法を選択することが重要です。

**6. 予防: ワクチンと衛生管理で愛猫を守ろう!**

残念ながら、FIPに対する完全に有効なワクチンはまだありません。しかし、FIPの発症リスクを減らすために、以下の予防策が推奨されます。

* **衛生管理の徹底:** トイレの清潔を保ち、食器や寝具も定期的に消毒する。
* **ストレスの軽減:** 猫が安心して過ごせる環境を提供する。
* **多頭飼育の場合の注意:** FCoVの感染拡大を防ぐため、隔離やトイレの数を増やすなどの対策が必要となる。

FIPは、猫と飼い主にとって大きな不安と負担を伴う病気です。しかし、正しい知識と早期発見、適切な治療によって、愛猫の命を救い、共に過ごす時間を守ることができるかもしれません. ”